元より急ぐ旅ではないから
(夏目漱石 「草枕」 抜粋)
土をならすだけならさほど手間も入るまいが、土の中には大きな石がある。土は平らにしても石は平らにならぬ。石は切り砕いても、岩は始末がつかぬ。掘崩した土の上に悠然と峙って、吾らのために道を譲る景色はない。向うで聞かぬ上は乗り越すか、廻らなければならん。巌のない所でさえ歩きよくはない。左右が高くって、中心が窪んで、まるで一間幅を三角に穿って、その頂点が真中を貫いていると評してもよい。路を行くと云わんより川底を渉ると云う方が適当だ。固より急ぐ旅でないから、ぶらぶらと七曲りへかかる。
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そうだな。
元より急ぐ旅ではない。
ぶらぶらと七曲りへかからむ。
Edited by じゅんか 2019-09-06 13:11:17
Last Modified 2019-09-06 13:11:17