解体の前に/来し方行く末(3)
どうしてこの事務所が改築されることになったのか、落ち着いて考えると大変不思議なのです。
大濱さんが作った家はいくつかありますが それはすべてこだわりぬいた家で、車庫や庭にいたるまで、大濱さん自身がこだわりぬいて作っていました。
実家材木店のように ごく普通の家の一部を改築するのは 通常あまり気乗りしない仕事だったのではないかとも思うのです。
...おそらくですが 渡米する前の大濱さんは不遇の時を過ごしていたと思います。
誰が見ても腕が良い、素晴らしい建築ができるとわかるのですが、毎回施主ともめてしまい、思う通りに仕事ができませんでした。完成しなかった現場も多々ありました。こだわりが過ぎて、予算と工期が大幅にオーバーすることが原因でした。
だってね、実家事務所だって 私たち家族は全く庶民であるのに、瓦は一文字瓦、雨どいは銅製なんですよ。
一文字の瓦なんて良いお屋敷でしか使いません。
銅製の雨どいも同じく高級品で、建築資材というよりは工芸品のような趣でさえあります。
....でも確かに 雨どいが市販の塩ビ製品であったなら 何かが台無しになったのだろう、というのもわかります....。
大濱さんはまだ若くて、20代半ば。師匠や親方がなかったのも 仕事をする上で不利だったと思います。
でも いわば この「干されていた時期」でなかったら この事務所を建てようなどとは 絶対に思わなかったと思うのです。
Edited by じゅんか 2018-10-11 23:00:10
Last Modified 2018-10-12 00:16:36